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ワシントンの「拡声器効果」を利用せよ

翁長雄志沖縄県知事が5月末からハワイ・ワシントンを訪問し、辺野古基地建設反対の意思を米国に伝えた。私が事務局長を務める新外交イニシアティブでは、知事に随行した訪米団の訪米日程の企画・同行を担当した。私もワシントンにて、城間幹子那覇市長や沖縄選出の国会議員、沖縄県会議員ら20名を超える沖縄訪米団と共に、翁長知事の訪米活動を間近にしながら、米国の連邦議会議員やシンクタンクのメンバーに会い続け、3日間55件にもおよぶ面談を通じて沖縄の意思を伝え続けた。


Photo by 新外交イニシアティブ

私は、既存の外交パイプが運ばない声をワシントンに伝えるための米議会へのロビー活動や、沖縄の方々の訪米ロビーの企画・同行などを続けて6年になる。沖縄の問題においての主戦場が辺野古の現場であり、日本政府に対する取り組みであることは十分に認識しているが、日本政府に対する取り組みにはワシントンへの働きかけが有効であると信じて、この活動を続けてきた。私はそうした立場から、沖縄の対米外交がどのような意義を持ち、今後どのようにあるべきかについて述べたい。

「本土メディアは成果なしとする知事訪米だが、沖縄メディアは大きな意義があったとする。実際はどうだったか」

日々、こんな質問を受け続けているが、私はこう答えている。

「大きな意義があったが、これが生きるか否かは今後次第である」

本土では「『辺野古NO』通じず(朝日新聞2015年6月6日)」など、厳しい評価を受けた。しかし、知事をはじめとした訪米団は皆、米関係者から直ちに「では辺野古はやめましょう」との回答があると期待して訪米などしていなかっただろう。

では、この訪米にはどのような意義があったのか。大きく見て意義は2つあると考える。

1つ目は、いうまでもなく明確に反対の意思を伝えたことである。ワシントンでは辺野古基地建設問題は既に終わった問題と考えられているが、その決定打は前知事の承認であった。この承認を受け、ジョン・マケイン上院議員他米国の辺野古基地建設反対の幾人かは沖縄が受け入れるならと賛成に回った。この状況下で県のトップが反対の意思を伝えることが必要だった。

2つ目は、日米合意を変えるための環境醸成の第一歩となったということである。米国で沖縄基地問題は知られていない。筆者は、米下院で沖縄問題を管轄する委員会の一つである外交委員会のアジア太平洋小委員会の委員長から「沖縄の人口は2000人か」と聞かれた経験すら有している。訪米団の面談開始時の決まり文句は「沖縄は日本の南に位置する島」であった。


Photo by Ricardo MangualCC BY 2.0

米国の対日外交の政策決定は限られた人々により行われている。筆者の調査によればその数は5人~30人であるが、それ以外の大半の人々はこの問題に無関心である。しかし必ずしも知日派が米政界で有力なわけではなく、無関心層にも米国の政策決定における有力者は数多く、彼らを動かすことが重要である。

訪米団が行った面談はその第一歩となった。

相手に反対の意思を伝えなければ政策変更はあり得ない。既存の外交パイプの日本側——東京が沖縄の反対の声を米国に伝えることはない。

訪米では今後の課題も明らかになった。

沖縄外交には短期的および中長期的視点を持った具体的な戦略が必要であること、またその実現のためにワシントンをうまく活用すること。詳細は割愛するが、この2点を課題として挙げておきたい。なお、辺野古の埋め立てが迫るといわれる今、中長期的目標は短期的にも意味を持つ方法によらねばならないし、人的・物的資源が限られる中、対米活動は「東京に影響力を与える形」で行われねばならない。


Photo by 新外交イニシアティブ

最も短期的な目標は、現在米議会で審議されている国防権限法案から「辺野古が唯一の選択肢」という文言を取り除くことである。今回の知事随行訪米団は、反対の意思を伝えてワシントンの環境醸成を行うという大きな目的の下、具体的に同法における辺野古の扱いの変更を求めた。

国防権限法は、米軍事予算を決める法律で会計年度ごとに作成されるが、本年5月に下院が通過させた法案には「辺野古が唯一の選択肢」という条文が含まれている。同法は米軍の活動予算を規定する極めて長いものであり、シリアやイラクなど米国の軍事政策がこの法案を巡って議論される。訪米当時、既に下院を通過していたにもかかわらず、下院議員を含む面談した議会関係者は皆、私たちが話をするまでこの条文を知らなかった。

なお、この条文は、普天間基地の米海兵隊の半分をグアムに早く呼び寄せたいとするグアム選出の議員が提案したようである(現行の日米合意では普天間基地の米海兵隊は半分がグアムに、半分が辺野古に行くこととなっている。その中で、辺野古の工事が進まないことからグアムへの移転も辺野古の遅延に引っ張られて進まない、と考えている人もいる)。しかし、米国の法律にこのような行政権の選択肢を狭める文言を入れるのは議会の在り方として適切ではないと考える議会関係者もいる中、誰が働きかけてそのグアムの議員に条文を提案させたのか、訪米団のメンバーは皆疑問に思い、同じ推測を働かせた。


Photo by ttarasiukCC BY 2.0

米国議会では下院と上院が異なった法案を審議し、両院が異なった法案を通過させた場合には両院協議会ですり合わせて最終案とする。訪米団帰国後、上院は「辺野古が唯一」との条文のない法案を通過させたため、6月25日から両院協議会が開催され、まさに現在、上下院の調整が行われている。

もっとも両院協議会において1人の議員(上記グアム選出の議員)が強くこれを推している状況において、他の議員はこの文言に関心がないため、このままではこの法案は条文と共に通過することになってしまうだろう。そしてこの文言が残れば、その方向を望む側は今後これを最大限利用するだろう。

また、この文言の除去そのものも重要であるが、日米合意を変える環境醸成のため、この文言除去の要請は辺野古反対を訴える良い機会と考えるべきであろう。今回の随行訪米団で55件という多くの面談が入ったが、これはこの審議のタイミングでの訪米だったからという現実もあったと思われる(なお、今回議員本人との面談が15件実現したのは、このロビーイングの場面では驚異的な数字と言ってよい。通常日本の国会議員の訪米では2~3人、時には1人だけしか会えない、といった場合もある)。

さらにいえば、本年または来年以降の国防権限法などの法律に「他の選択肢を検討する」という条項を入れるための働きかけがされねばならない。

両院協議会の審議は遅くとも秋には決着する。両院協議会メンバーへの働きかけが急がれる。

なお、仮に国防権限法が通ったとしても、これは宣言的な意味しか持たない条文である。グアム選出の同議員の補佐官は「この条文は米議会からの沖縄へのメッセージです」と述べていたが、この条文の存在を知る米議会議員がほとんどいなかったことは上述した通りである。これを米議会全体のメッセージと捉える必要はない。


Photo by U.S. Department of AgricultureCC BY 2.0

2つ目の短期的課題は、翁長知事による前知事の承認撤回・取り消しのタイミングでの働きかけである。時機を失しない働きかけの計画と準備が今から必要となろう。その決断の後、日本政府がどのような対応を取るにせよ、知事の判断を踏まえて米国の一定の層から賛意が示されればその影響はとても大きい。米側の賛同の盛り上がりを作る良いタイミングでもある。

中長期的目標は当然ながら、これらの点で日々米国に働きかけつつ、日米合意を変更することにある。そのためには、ワシントンを、そしてそこから直ちに影響を受ける東京を「変化を可能とする環境」に整えていく必要がある。ワシントンという覇権国の首都は、独特の機能を持つ。世界中の出来事について「重要な問題」としてアジェンダ・セッティング(課題設定)し、各問題を世界中に知らしめる拡声器効果を有している。特に東京はワシントンからの圧力に弱いため、この拡声器効果が極めて効きやすい。沖縄は国務省国防総省に働きかけるのはもちろんだがそれにとどまらず、ワシントンの機能の中枢を担うシンクタンクやロビーイストなどをうまく用いるべきである。また、研究プロジェクトを立ち上げる、シンポジウムを行うなどして、ワシントンの機能を最大限生かしての対米外交が行われねばならない。同時に、議員・メディアとの連携、米側のパートナーをうまく生かすことなど、その方法は慎重かつ効果的に練られねばならない。他方で、米側に別の解決案を考えさせるきっかけを与える交渉も重要であろう。カリフォルニア・ハワイなど現地の基地人員削減に反対する地域を対象に研究プロジェクトなどが行われてもよい。表に出ない場面でのきめ細やかな調整力も問われていく。


Photo by Richard KingCC BY 2.0

東京は沖縄には耳を貸さなくともワシントンには敏感に反応する。日本政府や日本企業は多大な資金でロビーイストを雇うなどしながら、ワシントンで「日本製の外圧」を作り出し、それをバックに日本国内において多くの政策が実現に移されてきた。ワシントンのわずかな変化は東京に大きな影響を及ぼす。

この「ワシントンの拡声器効果」を沖縄も使わねばならない。今回の第一歩を生かすのは今後の取り組み如何である。ワシントン県事務所を筆頭に、沖・日・米の協力者はもちろん、シンクタンクやNGO、市民団体などの力を集め、その声を戦略的に拡声し、日米合意の変化を可能とする環境をワシントンに醸成していきたい。

8月4日、政府は辺野古への移設作業を一カ月中断すると発表し、沖縄県と政府は集中協議を行ったものの、具体的な進展はなく協議は物別れに終わった。決裂を受け、翁長知事は9月14日、辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消す手続きを開始する方針を表明した。

辺野古を巡る状況に少しずつ変化がもたらされている。新外交イニシアティブでも引き続き努力していく。


Photo by 新外交イニシアティブ